10月1日
金曜に、勤め先の遠足で遊園地へ行った。遊園地へ行くのが仕事だというのは、何年経っても不思議な感じがする。
行き先は生徒による投票で、「ディズニーランドでなきゃ行かない!」という組織票を抑えてトップに立った都内のさる遊園地。
午前中に、生徒を連れて現地の最寄駅に着いた。生徒を連れて、と言っても、学年一クラスの小さな夜間高校であることに加えて出席する生徒の方が少なく、教員vs生徒の人数がいい勝負という陣容。学校の遠足というより、小さな会社か何かのご一行様にしか見えない。
大きいプールが併設されていて、夏場には、そのプールに人が集まっている写真が新聞に使われる。かように有名な遊園地だから、平日でもそれなりに人の流れがあって、それについて行けば……と思っていた。が、最寄駅を出るとほとんど誰も歩いていない。ガラガラの商店街があり、その向こうにそれらしき広場がチラッと見える。半信半疑で歩いていくと、果たしてそこが遊園地だった。
ゲート付近にも人影はなく、現地集合組は一瞬で発見できてしまった。ざわっ、と吹き抜ける秋風に、『ディズニーランドでなきゃ行かない!』と言い張っていた生徒の一人(もちろん欠席)のしかめっ面を思い出す。「遊園地はディズニーランドの一人勝ち状態」とは聞いていたが、これほどとは………混雑が嫌いな私にとっては「空いている」というのはラッキーなのだが、ここまで来ると、思わずこの遊園地の経営を心配してしまう。
ともあれ、学年の生徒三名に連れられて、最初の乗り物を物色する。わざわざ来た少数派だけあって、彼女たちのテンションはまんざらでもない。ビュッと通り過ぎるコースターを見ると、アベック二人きりとか、友達連れや親子の三、四人とかで貸し切り状態。果ては、休業中かと思いきや客が来るのを待っているだけ、というものまで。思わず、地方の赤字ローカル線問題に思いをはせる私。
それはさておき、最初の乗り物の入口で思い出したのだが、
「俺はジェットコースターとかそういうのダメなんだったー!」
目の前に、ビルの様な高さまで続くレールがある。それだけでも高所恐怖症の私を震えさせるのに十分だというのに、その先でレールは右に九十度カーブして、滝の如き下り坂を描いているではないか…。頭に血が昇り、鼓動が早まる。生徒たちが知ってて笑いながら乗車を促す。もはや判断能力を失った私は押されるままに座席へ座る。
「はい、それでは安全を確認させていただきま〜す」
係員がマイク放送した後、自ら都合四人だけの乗客の前へ来て、それぞれの安全装置を点検する。
「大丈夫ですよ♪」
と言っている様な、ニコッとした係員の笑顔が一瞬目に入る。
ふわっ、と、気持ちが楽になった。
ディズニーランドでも、係員の笑顔は見られる。でも、いっぱいの人に向けてマニュアル通りの笑顔を向けるのではなく、私に向かう時は私のために「大丈夫ですよ」という笑顔、はしゃいでいる生徒たちには、それぞれ一人ずつに「楽しいですよ」「もうちょっと待ってて下さいね」という笑顔をくれている様な気がした。
そして、毎日顔を合わせ、泣き顔や怒り顔も見てきている生徒たちの、本当に楽しそうな顔……。
こうして私は、ジェットコースターを怖がらずに乗る様になれた………訳がなく、目をつぶって恐怖満々の叫び声を上げ、彼女たちの物笑いのネタになった。
ただ、終わりに近づき、スピードがゆるみ始めたところで、ふっ、と薄目を開けてみた。木陰が点在するガランとした大地と、歩いたり休んだりしている数少ない人々。何というか、とてもきれいで心が和んだ。これより人が多すぎても少なすぎてもいけない…平日の空いた遊園地ならではの、美しさだった。
それに惹かれて、また誘われるまま宙返りやらグルグル回るのやらに乗ってしまい、また絶叫。
…とにかく、流行に乗せられて混んだところへ行列しにいく人々の気持ちが、以前にもまして分からなくなる一日だった。昼過ぎから少しだが人が入り始め、そして平日の営業時間は五時までなのに、三時を回ってから親子連れがちらほらとゲートを入って来るのを見た。この空気をいいと思うのは、私一人ではない様だ。
10月10日
スポーツの秋である。そして3連休である。
しかし、「冬コミに新刊を」と考えると、今月中に原稿を上げて挿絵を頼みに回らなければいけない。そして作品の進捗率はまだ三分の一といったところ。
なのでスポーツは後回しにして、この連休はタバコふかして酒をなめながらパソコンに向かうことに。同居人などは、某イベントに新刊を持参すべく徹夜を重ねた結果、数日前から幻覚を見るまでに至っている。同じ制作系ヲタクのはしくれとして、それぐらいは頑張らなければ。
「よし、今週末は『芸術の秋』だ!」
……非常に不健全な「芸術の秋」だが。
しかし、まずは金曜の晩、受け持ってる学年の生徒たちが…
「明日バドミントン大会来てね!絶対勝つよっ!!」
「あれ?今週だっけ?」
「……来てくれないの?」
「そ、そんなことはない!」
かくして翌朝、バドミントン大会へ。
夜間高校という商売柄、五時寝の十一時起きな生活を送っている身に、それも前日まで勤務していた体に、朝十時開会というのはきつい。九時には家を出ねばならないが、それは普通の勤め人だと朝四時ぐらいに相当するだろうか。
しかし、生徒もバイトしながら通学という生活の中、せっかくの休日を頑張ってやってくるのだから致し方がない。事実彼らは寝坊しないために、カラオケで夜明かししてそのまま会場へ来たという(おいおい)。
言っただけのことはあって生徒たちはよく戦い、そして結果もついてきた。私は彼らをあらためて見直し、来てよかったと思った。
……それはいいのだが、待ち時間が異様に長い。
二百人以上が出場する大会を一日でやってしまうため、朝十時開会にして、チャンピオンが決まるのは夜七時前後という次第。
我が校選手三人の一回戦が終わったのが午後一時。その後、二回戦までが一名、三回戦まで進出が二名。そこまで見届けて外に出たら、日が暮れていた………その間、一回あたり十数分の試合を見る以外は、すべて待ち時間。客席は選手の控え場所を兼ねているので人通りが多く、落ち着いてパソコンで作品など書く環境にない。タイムテーブルは一応あって、それを覚えて近くのファミレスにでも行こうかと思ったが、「試合の進行次第でかなりズレるよ」とのことでそれもNG。
これが野球なら、決められた時間に行ってその試合を見ればいいのに……テニスやバドミントンの大会というのはたいがいこんな感じらしいが、ただでさえ球技といえば野球しか知らない上に、原稿が書きたかった私にはしんどい大会だった…。
そして、野球といえば、この春まで顧問をしていた前任校の野球部が、この秋季大会で順当に勝ち進んでいた。副主将が次の試合を連絡してくれる手はずなのだが、彼がうっかり忘れていて、代わりに金曜にさる場所で会った元同僚から話を聞く。
「野球部、今度の日曜三回戦よ」
「あ、そうなんだ。行こうっと」
バドミントン同様、直前に知らされるのはちょっと困りものだが、前に書いた様に、野球ならばその試合一つを見に行けばいいだけなので、気は楽だ。すると元同僚が叫んだ。
「うわー、行くの?!八時半にS高だよ!」
「………(汗」
朝六時起きだ。普通の勤め人に換算すると…夜中の二時ごろ、かな。
…前日のバドミントンの生徒たちのごとく、無理やり起き通して、早朝にバイクを出す。
私の眠気に合わせた様な灰色の雲。そして冷たい雨が降り注いでいる。一般論では「雨天中止」という天気だが、定時制の野球は日程やグランドの都合がタイトなので、そんな状況でもしばし決行する。なお、第一試合のチームに決行・中止の連絡はない。
斜めに降る雨の中を一時間半バイクに乗り、元生徒たちと待つことしばし。事務局の人がニコニコと笑いながら現れ、
「今日は中止にしましょう」
私は、行きと同じ状況の道を、行きと同じ時間をかけて戻り、帰るや倒れ込む様に布団へ横たわった。
目が覚めると、とっぷりと日が暮れていて、そして私は風邪をひいていた。
……ああ………。
苦手な種目でもいいから、秋晴れの下でさわやかな「スポーツの秋」がしたい……。
もっと言うと五日ぐらい休んで、←こんな感じにどっか遠くへ鉄道旅行して、カメラ片手に健全な「芸術の秋」がしたいよぉ……(学期中にそんな休み取るの無理だよ〜ん)。
てな妄想を片隅に追いやりつつ、次週こそは書きまくろうと思う私だった。
……というわけで今度こそ原稿修羅場するんで、次の「近況報告」までだいぶ間が開きます。ご了承を。
【「近況報告:06年1月」につづく】